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あの日助けた人は亡くなったと思っていた。
だけど、時を経て、彼は私の目の前に表れた。
いつも余裕綽々で強引な人。
だけど、本当は繊細で誠実で優しくて。
「……梓、嘘吐いてくれてありがと。」
貴方は私に沢山の気持ちをくれた。
喜びも、哀しみも、切なさも全て貴方がくれた。
深い愛を知ったのはきっと九条さんが私にまっすぐぶつかってくれたからで
それを信じられるのはいつも貴方が傍に居てくれるから。
「それを言うなら俺だろ。玲があの日助けてくれたんだ。救急車呼んで、一緒に居てくれた。」
「それは、放っておけなかったし、周りに誰も居なかったから。」
「うん。でも、あの日俺は玲に救われたんだ。そんで、玲が嘘ついてくれたおかげでこうして一緒に居られる。」
重なった手に力が篭る。薬指で輝く指環も心なしか嬉しそうに見えた。
「…変だね、嘘ついてくれてありがとうって。」
「うん。でもいいんだ。そのおかげで今幸せだから。」
当時の私は思いもしなかっただろう。
まさか嘘で人生が大きく左右されるなんて。
最愛の男に出逢えるなんて。
「けど、もう嘘吐かないようにする。」
「ん。そうだな。これからはちゃんと素直に話して。」
「梓も、ね?」
「………そこは約束できない。」
「えーーっ、なんでっ、」
「ははっ、嘘だよ。」
END
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