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「何?」
つかつかつか、と無言で歩み寄った俺は勢いよく梓の左手を掴んだ。
その左手の薬指に輝くシルバーの輪っかは誰がどう見ても本物で。
「……はぁ、…何?雅まで。」
雅までって、ことは?
「凌もさっき左手見せろって言ってきた。」
そりゃそーだろーよ。
「結婚すんの?」
「あぁ。一年後な。」
「そう。」
めでたいといえばめでたい。
だけど、梓のせいで社員が減るのは困る。
「もし、今年度で退職者が増えたら梓のせいだからな。」
「は?」
「……求人だすか考えとけよ。」
全くもっていい迷惑だ。
友人としては本当に嬉しいけど、ここまで影響するもんなら溜息のひとつやふたつも吐きたくなる。
「で、今夜は祝う?」
「そんなのいい。それに今夜はハンバーグだから。」
「は、ハンバーグ?」
確かに美味しいけど、
「そ。帰りに玲拾って、買い物する。」
PCを見つめたまま素っ気なく言う横顔はいつもより僅かに緩んで見えた。
隠しきれない喜びがこちらまで伝わってくる。
「……で、玲ちゃんの邪魔するんだ?」
その光景が簡単に想像できてしまう。結局のところハンバーグより、玲ちゃんとの時間が大切なんだ。
「……人聞き悪い。ちゃんと手伝うから。」
一瞬ムッとしたけど、図星だったらしく、その声はあまり説得力がなかった。
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