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「お疲れ様でした!」
身体を離した途端、玲は逃げるようにマンションへの階段を駆け上った。
そんな風に逃げられるのが心外で、俺は咄嗟にその手を掴んだ。
ぐらり、と傾く身体はくるりと一周回って俺の腕の中に落ちてくる。
また逃げられる前に、
俺は玲の腰を抱き寄せて耳元に唇をよせ柔らかく、優しく、だけど挑発するようにもう一度彼女に宣戦布告。
「昨日も言ったけど、他の奴に嫁るつもりはないから。」
それでもまだ彼氏がいるからなんたらと文句を言っている。
さすがに結婚しているなら手は出せない。不倫してそれが会社にどう影響するかと考えれば当たり前だ。だけど、ただの恋人同士で、相手は赤道の向こう側にいる。
時差もあり、一年ちょっとやそこら彼女の傍にいる奴に負けたくなんかない。
「堕とすよ。俺に堕ちてもらうから。」
うん、もういいだろ。
俺にしろよ。
あの日からずっとお前のことを考えてたんだ。
分かれよ、この気持ち。
そう言いたいのを我慢してこめかみにキスをした。
「お、堕ちないからっ!」
ドン、と俺を突き飛ばして階段を駆け上る彼女はマンションのドアの前で一度こっちを振りむいた。
「おやすみ、」
そう言って手を振る。
玲はこめかみに手を当てながら小さな声で律儀に返事をしてくれた。
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