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プロローグ
夢物語が棚一面に詰まった物音一つしない図書室。
ココに来る生徒は、皆、数ある物語の中から選んだ夢を追い、自らその世界へと彷徨う。
ページが捲れる音も誰かの内緒話も彷徨う彼らには、聞こえていない。
物語に飛び込めない者には、音の全てが、何千と並べられた本と敷かれた毛の長い絨毯によって、吸い取られている感覚に陥る。
そうかと思えば、自分の心臓の高鳴りは、一つも吸い取って貰えない。
こんな皮肉は、小説の中だけにして欲しいと満月ここ数日、何度思ったことだろうと、自然と溜まる涙を堪えながら数えた。
今日こそ言おう、今日こそ言いたい。
満月の小さな肝の内に秘めた思いは、日に日に膨れ上がる。
それを考えるだけでムズムズする胸をどうにかしようと、自然と胸の前で訳もなく手遊びを始めてしまう。
近藤は、相変わらず自分の前で恥ずかしげに手遊びをする満月を前に、話の切り出し方が分からず頭を抱えたくなった。
今日こそ言いたい。今日こそ言う。
数日前から考えていた言葉を、もう何日飲み込んだのだろうかと、無駄にした時間を数える。
今日こそ言わねば、胸ににためた思いが明日にでも爆発しそうだと、刈り揃えたばかりの坊主頭をシャリシャリと触る。
誰にも知られていない小さくも重たい二人の秘ごとは、声に出されることなく、今日も始業のベルの音に掻き消された。
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