一章 始まりの一日

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満月は、ずっとそらしていた視線をチラリと近藤に戻して様子をうかがってくる。 近藤は、特に気にすることなく、頭を掻きながら素直に間違えたことを満月に謝った。 安心した表情をみせる満月は、首を横に降って気にしていないと言う。 会話が一段落着いたところで、近藤は駅へと歩き出す。 近藤は、同じ方向に歩いていたはずの満月も当然、同じように歩き出すのだと思っていた。 だが、二歩三歩と進んでも一向に満月の足音が聞こえない。 不思議に思い近藤は振り返る。 すると、歩き出す気配が無い満月がきょとんとした顔をして小首を傾げてくる。 訳が分からず、近藤も同じくきょとんと目を丸くする。 数秒間の沈黙が続く。 あまりに、静かで野良猫が横切る足音さえ聞こえる。 カラスがカァーと漫画のようなタイミングで鳴く。 近藤は、ハッっと我にかえった。 満月のゆったりとした雰囲気に流されていた。 かぶりをふって、気持ちを切り替え満月に問いかける。 「丸谷、帰らないの?」 満月は不思議そうな顔をしたままだったが、質問には答えてくれた。 「帰るよ? そうだ、まだ言ってなかったね。伊佐見君また、明日」 満月は、ご丁寧に小さくお辞儀をして近藤を見送ろうとするのだ。
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