一章 始まりの一日

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一章 始まりの一日

【凍子はいつもと違う場所から、普段ならその姿を目にすることも叶わない時間に、見慣れない姿の憧れの先輩をウットリと眺めていた。 席替えをしたばかりで凍子の席からは、グラウンドがよく見える。陽当たりの良いグラウンドでは、暑さをものともせずに走り回る憧れの先輩がより一層輝いて見える。 今は5限目。 凍子の憧れている“夏樹先輩”は体育の授業でグラウンドに出て、サッカーボールを追いかけている。凍子にとっては、夢のような時間だ。 いつもなら、おじいちゃん先生で当てられることのなく、抑揚のない説明と板書で行われる歴史の授業は、睡魔と闘っている。 しかし、今日からは思う存分に“夏樹先輩”を眺められる時間に変わった。凍子だって、夏樹のジャージ姿を見るのは初めてでは無い。体育祭や球技大会でチラリと人混みの中から見ることが出来たことだってあるが、それは一瞬だ。 人気者の夏樹は、何をしても目立つ。いつも周りには取り巻きが必ずいる。これほど、しっかりと見られるのはこの席ならではだ。 それも1時間近く見ていられるまさに特等席。 グラウンドで爽やかな汗を流す夏樹に凍子は、すっかり逆上せあがっていた。 これほどまでに熱をあげていても凍子は、遠くから見ているだけで幸せだった。 夏樹の野球部の後輩で凍子の幼なじみの男子生徒・ひなたから見たら、凍子は夏樹の“ストーカー”らしい。 そんな皮肉を言われても凍子は告白など、とんでもないと勇気を持てずに1年ほど“ストーカー”をしている。】
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