一章 始まりの一日

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竜二は、たまたまだと鮭のように赤く頬染めて照れている。 さすがは、満月の父親というところ。 満月の想像力では、追い付かない。 満月は、竜二の意外な過去に妙に腑に落ちた。 謎が謎を呼ぶような自身の父親なら、十分にあり得る話だ。 その運動神経は、満月には受け継がれていないわけだが……。 陽奈子は、思い出の中にひたっているのか、目を吊り上がらせ、口を尖らせている。 「お父さんね、本当は、全国大会にも行く予定だったのよ。私の書道コンクールの展示日と全国大会の日程がかぶるから、大会当日にばっくれたのよ。はぁ……今、思い出しても疲れる思い出よ」 陽奈子は、遠い目をして当時を振り返る。 逆に竜二は、上機嫌になっていく。 ほうれん草のお浸しを味噌汁で流し込むと生き生きと語りだす。 「だって陽奈子は、僕に作品を見せてくれないし、展示会にでもいかないと見られなかったんだよ。それに陽奈子の作品も優秀賞を貰ってたからね。見に行かなくちゃ駄目じゃないか」 思い出と共に苦労も蘇った陽奈子に対して、竜二は、ニコニコと満面の笑みを浮かべる。 竜二は、陽奈子を気にせずに、また味噌汁を一口すする。 改めて味わった家の味に美味い!と唸った。 二人の思うところは、真逆のようだが、内容の濃い一日だったのだろうということが、満月にも伺えた。 「二人とも若かったのよね。大恋愛だったのよ。あなたのお父さんとお母さん」 流花も当時を思い出したのだろう、こちらも良い笑顔だ。 満月は、三人三様の思い出が詰まったエピソードのようだ。 満月は、この話には触れない方が良いと思い、質問を変えることにした。 「じゃあ、お父さんって野球は、したこと無いんだね」 小説に出る夏樹とひなたは野球部の所属。 知っておきたいのは、野球のことについてだ。
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