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弱気だった満月だが、チャンスは翌日に巡ってきた。
満月は、昼休みを利用して、借りていた野球のルールブックを図書室へ返す。
返却時に司書の先生に珍しいと呟かれた。
恥ずかしくて顔が熱く仕方がない。
先生には、他意は無いのだろうが、小説を書いていることを誰にも知られたくない満月は、過敏に反応してしまう。
満月は、返却を終えると足早に図書室の奥へ歩いた。
図書室は、満月にとって自室のようなもの。
毎日通って入学一ヶ月で覚えた図書の配置。
小説を置いている棚にも迷わず足を進められる。
今日は、純粋に本を楽しむために図書室に来た。
自分じゃない誰かになって、自分以外の人生を知りたい。
満月は常にそう思っている。
今日は、誰になろうか。
沢山の本を前にすでにワクワクしていた。
「丸谷じゃん」
名前を呼ばれて、本が整列している棚から目を離すと近藤がいた。
昨日の今日で近藤と話をする機会が出来るなど、思っていなかった。
今朝、満月が学校に来ても近藤は、特に反応がなかった。
だから、満月は、そういうものなのかと昨日のことは、気にしないことにしていた。
話をかけられれば、何かやましいことがあるわけでは無いのに、何故だかたちまちに緊張してしまう。
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