二章 変わりたい

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満月は、男の子と一緒に帰るなんて、生まれて初めてだった。 恋愛小説みたいなことをしたと、寝る前まで思い出していた。 今も布団を頭まで被って、中で悶絶した昨夜のことを反射的に思い出すのだ。 まともに近藤を見られない。 近藤は、反省など想像することもなく、友達に会った時のように満月へ喋り出す。 「昨日、あんなに話して帰ったってのに丸谷、いつもと変わんないからさ。夢でも見てたような気分になったよ」 近藤は、冗談めかして大袈裟に腕を広げておどけてみせる。 近藤が昨日のことなど全く気に留めていないように見える。 それが、満月の羞恥心をより煽る。 いつものように足元を見て、モジモジとやり過ごす。 「それで、何借りるんだ? 俺のおすすめは、コレだな」 ふいに近藤は、本棚の中の一冊を取り出して満月に差し出す。 その本は誰もが知る童話の原作。 女の子が不思議の国に迷い込む物語。 満月も何度か読んだことがある本だ。 確かに、おかしな世界に入っていく感覚は、何度、読んでも面白く可笑しく恐ろしい。 だけど、図書室の数ある本の中で誰もが物語を知っている本を薦める理由が分らない。 真意が読めない満月は、近藤の持つ本の表紙をジッと見て首を傾げる。 近藤は、小首を傾げる満月へ意地悪な顔で 「学校にいる時の丸谷は、いつも一人でいて、不思議の国に迷い込んだみたいだ」 と笑っている。 一人でいることをからかわれたようで、満月は珍しく口を尖らせる。 「私は、この本の女の子みたいに好奇心旺盛じゃないと思うけど。伊佐美君はお茶会を開いている人達みたいだよね。いつも楽しそうにしてるし、時間を進めてるんじゃないかって思うくらい遅刻もしてるし」 満月は、一人だなんて言われた仕返しと、物語の中で時間と喧嘩をしてお茶会を開き続けているイカれた帽子屋に例えた。 どうせこんなことを言っても、常に沢山の人と囲まれている近藤は、本など読んだことがないだろうと、高を括っていた。 近藤が図書室にいる理由など満月には分からなかったし、考えもしなかった。 本より漫画のほうが好きそうだと勝手に近藤の好みを決め付けていたのだ。
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