二章 変わりたい

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もちろん、満月の予想は外れていたし、ささやかな仕返しだって上手くいかない。 それどころか近藤は、同じ本を読んだことのある人間と話せることを喜んでいる。 その証拠に図書室という場所に気を遣って、クックッと笑い声を圧し殺している。 「俺が帽子屋だなんて、上手いこと言うなぁ。いつも遅刻する俺は時間と喧嘩してるようなもんだ。だけど丸谷は、やっぱりアリスだと思うけどなぁ。好奇心は、ありそうだし。図書室にくるくらい。でも行動力は無さそうだよな。喋る兎なんて、怖がって追いかけなさそうだ」 満月は、思惑も外れ、何も言えず、むくれていた。 近藤は、イタズラが過ぎたと満月に悪気が無かったことを愉快そうに弁解した。 「でも、面白い本なのは確かだな。丸谷は読んだことあるみたいだけどな」 確かに、挿し絵も綺麗で話もヘンテコで不思議な魅力のある本である。 満月もお気に入りだ。 ただ、今の満月は本の話より、本について熱く語っている近藤の方が気になる。 嬉々とした表情で話をしている近藤の方が、不思議の国の話より、ずっと不思議で似合わないとさえ思っていた。 「伊佐見君は、本が好きなんだね」 昨日、今日と近藤と話か出来て、普段よりも近藤との距離が近く感じた。 それで、つい、いつもの満月なら心に留めておくような偏見を口走ってしまう。 満月は、言ったあとに気付いて、思わず口に手を当てて噤む。 近藤は、気にしていないように、昨日の帰り際に見せた快活な笑顔をみせる。 「キャラじゃないって、よく言われるけど。本を読むのに、キャラだとか性格とか関係ねーよ。そう思わねぇ?」
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