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近藤の笑顔で肩に入った力を抜いた満月は、今度は言葉を選びながら喋る。
「そうだね。でも本を読んでるところを見たことなかったから、意外だなって私も思ったよ? 私、図書室には、よく来てるけど、伊佐見君のこと見た覚えないし」
満月は、そう言いつつも図書室で近藤を見ていないかを思い出そうとする。
視線を左上へ持っていったり、目を瞑ったりして集中してみた。
それでも、やはり今日が初めてのように感じた。
もしかしたら、知らぬ間に来ていたのかもしれないと申し訳なく思う。
「図書室に来るのは初めてだからな。いつもは、買うか……。あー、家にある本を読むかかな」
近藤は、言い淀むも満月は気付いていない。
それどころか、良かったと胸に手を当てて、自分が間違っていないことに安心している。
近藤は、図書室へ来た理由を続ける。
口調は、少し早口で言い訳のように聞こえる。
満月は、話を聞くことで精一杯で近藤が言い訳する意味を考えるすきもなかった。
「だいたい、いつも金欠で中古本しか買えねぇけどな。今月は、さらにヤバくて図書室に来たんだ。返すのが面倒だから、嫌なんだけど背に腹は替えられないしな」
そう言い近藤は、本を選ぶ。
そして、適当な本を本棚から抜いた。
パラパラと本をめくり、内容を確認している。
満月は、意外だと思った。
自分の思い込みが恥ずかしくもなる。
「そうなんだ」
と相槌うつ満月の声は、とても小さいものだった。
満月は、近藤が本を選ぶのを呆然と眺める。
やはり、部活で鍛えられた筋肉質な腕と分厚い小説、それもファンタジー小説は、すぐに見慣れない。
近藤を見ている内に満月は、急に昨日の母の言葉を思い出した。
「野球のことならお友達に聞きなさい」
チャンスは、今しかない。
心臓がドキドキと痛む。
本好きに悪い人はいない。
満月は、自分に言い聞かせて勇気を出した。
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