二章 変わりたい

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「私の方こそ、可笑しなこと聞いてごめんなさい」 謝ったのに謝り返される。 なんとも不思議なやり取りに近藤は、笑い声をプッと吹き出す。 これでは、本当に不思議の国に迷い込んだみたいだ。 ドードーの堂々巡りだと、近藤が肩をすくめる。 すると、満月は、またも謝ってしまう。 二人は、顔を見合わせてクスクスと笑った。 「そう言えば、丸谷って本の虫なんだな。毎日、図書室に来てるって、さっき言ってたし」 近藤は、手持ちぶさたになり、もう一度、本棚に並ぶ本を眺めながら、満月に話をふる。 ボンヤリと立っているのも周りの迷惑に違いない。 満月も近藤にならって、同じように本棚の本の背表紙を眺めた。 古そうな黄ばんだ文庫本の中に混じる目新しい文庫本がやたらと目立つ。 満月は、思わず綺麗な文庫本を手に取る。 「本の虫っていうほどじゃないと思うけど。図書室にいると落ち着くから来てるだけだよ」 満月が自嘲気味に言えば、近藤は、同志を得たと言わんばかりだ。 「その気持ちは分かる! 本に囲まれてると落ち着くよな」 話が通じる相手を得て嬉しくなった近藤は、興奮していて徐々に声も大きくなった。 そして、またしても周囲から鋭い視線を二人は感じた。 流石に、これ以上は図書室の利用者に迷惑がかかる。 二人は、適当に気になった本を手にして受付で本を借りると、速やかに図書室から出る。 「俺の周りに読書好きなんていないから、そういう話が合う人間がいるとテンション上がるんだよな」 その気持ちは満月にも十分に分かる。 同年代の女の子達の会話より、親子ほど年の離れた司書の先生の方が話が合う。 同級生達とは、たまに映画になったタイトルの話をしても原作と映画との差は、会話が進むに連れて出てくる。 何より、映画館での放映が終われば、彼女達は飽きてしまう。 「その作家なら、別の小説もオススメだよ」 満月が勇気を出して言っても 「へー、そうなんだ。また今度読むね」 と、話はそれきりになる。 そして、深い話などすることもなく、次の話題へと興味を移している。 作家について、作品について、語り合えるほど話せる仲の同級生など満月に、出来るはずなどなかった。
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