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満月は、近藤を急かすも、近藤は全く動じない。
近藤の歩く速度でゆったりと教室へと帰る。
二人の周りには、すでに生徒の一人もいなくなっていた。
近藤は、眉尻の下がった満月へ大丈夫だと声をかける。
「次は、歴史のジージ先生だろ? 先生、来るの遅いし、遅れても何にも言われないよ。ゆっくり、帰ってもオッケー」
堂々とした遅刻発言。
確かに、満月も年を召した愛称ジージ先生の授業では、隠れて執筆をする。
昨日だって、ジージ先生の授業でしっかり執筆した。
だからといって、わざと遅刻するのは、忍びない。
もう一度、満月は近藤を急かしてみる。
「伊佐見君、遅刻は駄目だよ?」
満月は、意図せず昨日と同じことを言った。
近藤は、昨日と同じ快活にニカッと笑う。
「大丈夫、大丈夫」
と根拠の無い自信をみせる。
満月は、おろおろと近藤の歩くスピードに合わせて教室に向かう。
近藤は、焦ることなく鼻歌交じりに歩く。
満月は、近藤を置いていくことも出来ずに、近藤よりも少しだけ前を歩くだけだ。
近藤があまりにも呑気なものだから、満月は、彼は本当に時間と友達で時間を操っているのではないかと勘ぐってしまう。
静かになった階段を二人で登る。
いつもよりゆっくりと戻る教室は随分遠く感じる。
空き教室の時計を見ると本鈴がなるまで、あと二分。
満月の脳内では、ジージ先生の少ししょんぼりとした顔が思い浮かぶ。
満月は、しょんぼり顔の脳内にいるジージ先生に心の中で謝る。
二人は結局、本鈴が鳴ってからしょんぼりした顔のジージ先生に出迎えられて、教室に入ったのだ。
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