一章 始まりの一日

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文学好きな近藤が投稿小説の恋愛ストーリーにハマった理由なんて、あってないようなもの。 持ち歩く本を家に置き忘れただけだ。 仕方なく、ウェブで探した投稿小説を暇つぶしに読んだのが始まりだった。 若者らしい表現が、近藤の中にストンと入る。 今まで、食わず嫌いに似た感情で投稿小説を毛嫌いしていたが、なかなか面白い。 読めない展開や個性的なキャラクターでサクサクと読めてしまう作品も多い。 主人公の考えも自分と重なるところが多くて感情移入がしやすい。 それになにより、普段は読まないジャンルの恋愛小説もスマホなら人目を気にせず読める。 そんな理由で近藤は、今では投稿小説サイトにほぼ毎日、入り浸っている。 授業中にもアクセスするほど目を通す。 何度も読み返している作者もいるくらいだ。 何回、読んでも泣ける。 授業中じゃなかったら号泣してる。 この投稿者、センス合うな。 次の作品が楽しみだけど、あんまり、急かすのもよくないよな。 でも読みてぇ。 近藤は、作品を読み終えたばかりでも続きが気になりうずく。 もう一度読み直そうかと、黒板上の時計を見ると授業時間も残り数分だった。 黒板には、ミミズがのたくったような字の走り書きが数文字だけ書かれている。 近藤は、すぐにペンを持ち教科書と黒板を見比べた。 ミミズ文字を解読し、適当にノートへ書き殴って授業を終える。
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