二章 変わりたい

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お互いに何も言わないまま、街灯と自動販売機の薄明かりが、ボンヤリと照らす歩道を歩いた。 皮肉なことに、今日は満月だ。 人工的な灯りに負けて、明るいとまではいえないが、美しく光り輝いている。 月が綺麗とも言えずに二人共一言も喋らず、ファミレスで楽しくしていたのが嘘のようだ。 電車に乗りこんだ後も沈黙を引きずる。 車窓から見える景色は、ビル街から田畑、一戸建ての住宅が建ち並び、だんだんと雰囲気が変わってきた。 もうすぐ、満月が降りる駅に到着する。 車内アナウンスとともに、電車のスピードが遅くなるのを体全体で感じる。 満月は、見慣れた町並みに安心感と、今日も秘密は秘密のままという不安感を頂く。 それも全ては自分の性格故で仕方ないと、言い聞かせている。 ホームが見えて、別れを告げる時間がそこまで迫る。 その時、思い切った近藤が口を開く。 「丸谷!」 緊迫した顔の近藤を不思議に思うも満月は、近藤の正面に立ち、話を聞く体制になる。 汚れを知らない瞳の満月に、近藤は臆してしまった。 「俺達、似た者通しテスト頑張ろうな!」 近藤が咄嗟に言葉を捻り出すと同時にドアが開き、満月は笑顔で応えた。 「そうだね。まずはテストだね。頑張ろうね」 そう言うと満月は、電車から降りた。 いつものように小さく手を振った後、お辞儀をする。 ちょうどよくドアが閉まった電車は、ほどなくゆっくり動きだす。 近藤も満月に手を小さく振り返した。 車内では、近藤のひきつった笑顔で乾いた笑い声が響いていた。 近藤は、天を仰いで車内の明る過ぎる白熱灯に目を眩ませていた。 「俺ってバカ。丸谷だって……」 困っていたと、続けようとしたが満月の言葉を思い出すと妙に引っかかった。 「まずは、って何?」 帰宅した後も近藤は、後悔ばかり数えていた。 小さな声でただいまを言い、制服のままベッドに上がり、ひとしきり唸る。 枕をを叩いて、掛け布団を蹴り上げて、自分の不甲斐なさを嘆いた。 そもそも近藤が小説のことを言えない理由は、妙なプライドだけではない。 満月と友人関係を築いてきた数日で、心境の変化があった。 近藤が読んでいる投稿小説サイトには、作者と読者を繋ぐSNSのシステムがある。 それを使って、小説の感想や疑問点、はたまた、自分の悩み相談をしたりと自由にやり取りを交わしていた。 ハンドルネームは、付けたり付けなかったり、好き好きだが、大抵付けている。
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