二章 変わりたい

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作者と読者は作品だけで繋がる。 しかし、それだけだからこそ登場人物達に共感し、同調し、時には、悩み相談にまで発展していく。 行き場のない悩み、人からはどうでもいいとあしらわれる疑問。 そんな小さな問い掛けを共有出来るネット上の狭くてリアルなコミュニティが出来上がった。 近藤は、満月との友人関係を上手くいくためのアドバイスを作者にもらっていた。 何せ人見知り、引っ込み思案の代名詞ともいえる満月は、近藤の周りにいないタイプの性格である。 作品の感想とともに、奥手な主人公の気持ちを書ける作者に是非ともアドバイスが欲しかった。 もし、主人公のような性格の子と友達になろうと思うなら、どんな話が良いのかとか、どんな風に話をすれば良いのかとか。 作者曰く、仮に主人公ならという話でアドバイスを貰い、実は近藤は実践していたりする。 間合いを詰めると怖がるとか、早口で喋られるのが苦手とか、近藤も最初はいくつか参考にして満月に話をしていた。 その他にも日々、さまざまな相談を作品の感想と共に送っていた。 その内に近藤は、優しく丁寧な言葉遣いとアドバイスを返してくれる顔も年齢も本当の名前も知らない作者へ恋に似た感情が芽生えた。 性別は女とプロフィールにあったので、信じているが違っていたら、立ち直れないと近藤は、思っている。 作品だけでなく、人柄にも惹かれていき近藤自身も戸惑っている。 それでも近藤は、毎日のように彼女の投稿小説を読むのだ。 「キュンキュンだ。トキメキだ。やっぱ、この人の文章は良いな」 ベッドで横になり一人、作品の余韻に浸る。 主人公が片思いの相手とお近付きになる場面を思い出すと、自分の胸の鼓動も早くなる。 心臓を落ち着かせるためにゴロゴロとベッドの端と端を行ったり来たりする。 枕を抱えてスマホを両手に持つ近藤は、まるで乙女だ。 ひとしきり、作品と妄想の中に入り込むと満月とも分かち合いたいという考えが浮かぶ。 そして、秘密を告白するタイミングを逃し続けていることも同時に脳内を占領するのだ。 「今日も丸谷に言えなかったなー。丸谷に言っても絶対、笑われないのは分かってるんだけど。でも、作者に恋愛感情っていうのはおかしいよな。いや、でもそこまで言う必要ないし」 あーでもない、こーでもないと一人、頭を抱えながらブツブツと喋る。
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