三章 複雑な心

1/44
前へ
/105ページ
次へ

三章 複雑な心

【ひなたは、胸に秘める思いを、我慢することが出来なくなった。 凍子に対する恋心や気付いてくれない苛立ちを良心に構わず、ぶつける。 「凍子、もう俺に会うのやめろ」 凍子は、驚いてひなたの手を取る。 助けを求めて縋り付く凍子の悲しみが彼女の震える手から伝わる。 しかし、苦しいのはひなたも同じで、助けを欲している思いは、むしろひなた方が大きいくらいだ。 何も知らない凍子は、自分を責める。 「なんで? 私、なんかした? 私のこと嫌いになった?」 ほんのりと化粧をした凍子は、瞳に少し涙を溜めて、無意識に女らしさを際立たせる。 ひなたは、ドキドキと高鳴る胸の鼓動を知らないふりをした。 自分の心に蓋をすると、ますます息が詰まって苦しくなった。 行き場がなくなる呼吸と、凍子への想いが涙となって流れ出る。 止まらなくなる涙は、これまでのひなたの悲鳴だ。 ひなたは、凍子が見たこともない痛々しい面持ちで叫ぶ。 「お前、俺のこと何だと思ってるんだよ! 俺は凍子の便利な道具じゃねぇんだよ! なんでも俺に聞くなよ! 先輩に告白したいなら自分で告白しろよ! 俺は……俺は……お前のことが好きだったんだよ!」】
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加