三章 複雑な心

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高橋は、普段はしないような間延びした口調で近藤をからかう。 近藤は、高橋の言葉に少し安心をするも 「だったら、早く返せよ!」 と威嚇している。 高橋は、ニヤニヤと不敵な笑顔のままだ。 高橋は、一番新しい履歴の中身を見てみようと画面をタップする。 写るのは、眠たくなるような文字の羅列。 読書家の近藤が、スマホで小説を読むことなんて、驚くことではない。 高橋は、残念そうに眉を下げて、ため息を一つこぼす。 仕方ないといった様子で、高橋は、近藤にスマホをそのまま差し出した。 高橋が、最後に見えた文章をたまたま目で追う。 そこには、男が女に熱い告白をするシーン描写されていた。 それだけで恋愛小説だということは、高橋にも分かった。 高橋は、全てを理解した。 ニンマリと口を三日月の弧を書くような笑みを浮かべている。 しばらく二人は、近藤のスマホを間に無言で見つめあっていた。 近藤は、冷や汗を流してゴクリと唾を飲み込む。 高橋は、相変わらずニタニタとチェシャ猫のように笑っている。 そうしている内に学校最寄りの駅に電車が着いた。 近藤は、高橋から自分のスマホをひったくる。 そのまま、何も言わずにバッグを肩にかけて一人で電車を降りた。 学校までの通学路を颯爽と歩く近藤の後を高橋が走ってついてきた。 「そんな怒るなよ、チカちゃん。良い趣味だと思うぜ。良いよな、甘酸っぱい青春は。いつ読んでもときめくぜ」
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