三章 複雑な心

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「あーもー! お前、嫌い!」 自分の叫び声を合図に野球部イチ素早い高橋を全速力で追いかけた。 暴露を防ぐために、練習中は高橋の一挙手一投足に神経を磨り減らした。 おかげで朝練に集中出来ず、無駄な体力を使い、疲れてしまった。 朝練を終えてみると、近藤は、ぐったりとしていた。 クラスメートが続々と登校する中、近藤は机に伏せていた。 教室の内外から生徒達のおはようと言い合う声が聞こえる。 最近、席替えをして席が変わり、聞こえてくる音の方向も以前と少し違う。 まだ、違和感を覚えて上手く眠れない。 その中から近藤の耳に隣の席の椅子が引かれる音が控えめに聞こえた。 首だけをそちらに向けて、挨拶をする。 「おはよう、丸谷」 声をかけられた満月は、申し訳なさそうな顔をしていた。 「おはよう、伊佐見君。ごめんね、起こしちゃったよね?」 近藤は、のそりと起きて腕を大きく伸ばした。 「大丈夫。寝てたわけじゃないし」 心配してくれる満月を見ると、くさった心が少し癒される。 「でも、野球部の朝練があったんだよね? 大変だよね。やっぱり疲れてるんじゃ……」 優しい声をかける満月に近藤は、改めて感動をした。 チェシャ猫のような高橋とは大違いだ。 「いや、本当に大丈夫! 朝練は、いつものことだし。ちょっと、朝から面倒なやつに絡まれちゃっただけで!」
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