一章 始まりの一日

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自己評価と自分を好きになってくれる人と何の関係があるのだろうか。 そもそも自分を好きになる人など、現れるのか。 そんな風に考えた満月は、無言で呆けた顔をする。 反対にすみれは、自信たっぷりに言葉を続ける。 「だって、好きな人をバカにされているようなものじゃない。本人からしたら、とるに足らないものでも、それを好きになってくれる人もいるんだし。少なくとも、私は満月のこと好きよ。だから今度、軽はずみな発言したら私が可哀相って思ってよね」 そういう考え方もあるのかと満月は、すみれの言葉に納得した。 納得はしたが、自分に当てはまる言葉だとは思わなかったようだ。 こんな私を好きになってくれるだなんてらすみれちゃんは優しいなぁ……。 自己評価の低すぎることをしみじみ思いながら、小説のどこかで使おうと、すみれの言葉を心のネタ帳にメモしていた。 「そんな当たり前のこと言いに来たんじゃなかった。ねぇ満月、今日は一緒に帰る? 帰りにどっかよらない?」 すみれは話を鮮やかに変える。 すみれは時々、こうして一人で居たがる満月を気にかける。 「ゴメン。今日は図書室によろうと思ってて……」 そんな他愛もない話をした後、ちょうどよく休憩時間を終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。 クラスメート達がしぶしぶと自席に戻っていき、すみれも満月に暫しの別れを告げた。 次の授業は英語で今日の最終授業。 英語の教科書を机の中から出す。 ノートを開けば予習は完璧。 後は、先生の話を程良く聞くだけ。 満月の意識は、すでに図書室に向かっていた。 号令がかかる頃には、満月は小説のネタと図書室の本で頭がいっぱいになっていた。
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