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放課後、満月は図書室で本棚に綺麗に並べられた本を見て回った。
ジャンルは様々、恋愛小説、ミステリー小説、ファンタジー、童話、歴史、料理本…。
挿絵も台詞もない本でもとにかく手に取る。
背表紙だけで惹かれたものを何度か立ち止まってパラパラとめくっては戻すを繰り返す。
どんな本を見ていても小説のネタに繋がるようなものが無い。
今日は収穫ナシかと思い帰ろうかと引き返す。
いくつかのジャンルに別れた本棚を通り過ぎる。
スポーツと書かれた棚の間は大抵、誰もいない。
誰の邪魔にもならないそこを通る。
目の端で気になる本を見つけた。野球のルールブックだ。
小説のヒロイン凍子が思いをよせる夏樹先輩は野球部の設定にしている。
特に深い意味は無い。
スポーツといえば野球かサッカーと適当につけた設定だ。
典型的な文学少女の満月は、それくらいの認識で書き出した。
ともあれ、全く知らないというのも考えものだ。
そういえば、野球のルール詳しく知らない。
投げて、打って、どっちに走るの? どうやったらアウトになるの?
ホントに知らない。
満月が書こうとしているのは、あくまで恋愛小説。
野球に詳しくなくとも、それなりに書けるきになっていたが、考え始めると気になることが増えてくる。
今日の収穫はない、どうせ手持ち無沙汰だ。
少しだけ読んでみても良いかと思い、ルールブックを手に貸出し受付に向かった。
借りた本をカバンに入れて校門に向かう。
校舎とは別館の図書室を出て、グラウンドを横切る。
グラウンドでは、野球部員が腰を屈めて膝に手をつき、時々、額や顎をつたう汗を拭う。
彼らは、満月にも聞こえるほどの声で「サーコイ!サーコイ!」と叫んでいる。
満月には練習の詳細は分からなかったが、カキーン、パシッといかにもな音が何度も繰り返されていて、その音が心地よかった。
満月は、彼らが何故あんなにも頑張れるのか不思議に思う。
炎天下の中、汗を流し苦しい練習に耐えるのが容易なことではないことくらいは、想像できる。
しかし、厳しい練習は自分なら一時間、いや三十分も保たないだろう。
白球を追いかける野球部を横目に、鞄に入れたルールブックの存在を、肩にかかる重さで感じた。
野球部員が頑張れる理由を少しでも理解出来るかもしれない。
満月は、足早に読書場所にしているファミレスへと向かった。
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