君は、明日の夢を

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 皮肉屋な一面は確かにあったが、今ほど素直に笑うような人間ではなかったはずだ。 『話には聞いていたけれど、仮人格ダミーと話すのはとても奇妙な感覚だ。提示されている情報は確かにミナイだが、すこし君はミナイと違う。本当に、少しだけのズレだけどね』 「しかたないさ、俺はミナイであってミナイではない。魂とよばれるあやふやなものが、この作られた肉体に定着するまでの繋ぎでしかないんだからね。ゆっくりと、彼に取り込まれて消えるだけの儚い人格だ」 『君は、たしかにミナイの複製体のようだ。データが示している。勝手に作られたわけでもない。ミナイの同意の下に作成されている。……どうして?』  ミナイは慣れた仕草で、外部から僕のコクピットを開けた。 「うわっ、これは酷い。計器はともかく、シートはそっくり新しいものに代えて貰わないと駄目だ」 『シートだけ良くしても駄目だろう。洗浄して、消毒して、ほぼそう取っ替えになるね。大変な仕事だ』  コクピットから溢れ出る腐敗臭に、下で作業をしていた整備スタッフたちから苦情の悲鳴が上がる。  ミナイの遺体が引きずり出されてからずっと、そのままになっていた。  どうしてかというと、僕がふて寝を決め込んで、篭城していたからなのだが。 『閉めていいかい?』     
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