君は、明日の夢を

2/31
40人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
 今は、返事がないので全て僕の独り言になってしまうわけだが、機械とはいえ癖が出る。僕の癖は、おしゃべりなところだろう。返事がなくともついつい喋ってしまう。  僕は、人型戦闘兵器のオペレーションシステム。つまりは、AIだ。機体番号から〝ナイン〟と通称で呼ばれている。  登録されているパイロットは、日本国籍を持つ男性で、二七歳、独身。  名前は、ミナイ・ユウヒ。すでに、息は途絶えてしまっている。  何を喋っても、独り言になるわけだ。死体は、喋れない。喋りたくとも、沈黙するしかない。  人間のように虚しいと思う感情がないのが、幸いだ。いつまでも喋っていられるおかげで、ぼくは稼働し続けられている。  コックピット内の環境を維持するために、僕は本国から救援が来るまで眠りにつけない。  外は、灼熱の砂地だった。いくら密閉度が高く、分厚い装甲に守られているとはいえ、快適な温度を保つには限界がある。  空調をとめれば、ミナイ・ユウヒの遺体はすぐに朽ちるだろう。生命活動の停止は、腐敗を招く。  最適な気温を保っていても、柔らかな体はすでに形を変えはじめている。  溶けるように朽ちる肉体は、まるで、僕の中にミナイが消化されていくようにも思えた。 『冗談は、本当にならないから面白いんだろうね』  機体を棺桶にする、なんて言っていたミナイを僕は叱りたい。     
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!