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誰も居ない砂漠で、僕以外に看取られることなく死んだ事実を、無かったことにできればいいのにと、思わずにはいられない。
「辛気くさい顔だな、ナイン」
「精巧にできている証拠だよ」
閑散とした道を駆け抜け、車は丘の上に到着した。
僕たち以外にも訪れる人がいるのか、キャンプの痕跡が彼方此方に残っている。
「俺は、君に会ってみたかった。ミナイ・ユウヒとしてではなく、仮人格として君に……君たちに興味を持った」
車を降り、屋根に積んでいたキャンプ道具を降ろしながらミナイが言う。
手伝いを申し出たが断られ、代わりに車のトランクに乗せていた箱を取り出した。中には簡単な食事と、コーヒーを煎れる道具が入っているらしい。
「仮人格の役割は、死亡当時のショックをできるだけ緩和させることだ。夢から覚めるように、自然に、現実へ戻ってこられるように心と体を慣れさせるための緩衝材ってやつだ」
二度目の人生を選択する者の多くは、戦死者だ。死ぬ直前の経験を引き摺ったまま目覚めれば、精神に多大な影響を及ぼしかねない。
仮人格は、複製された脳を制御し新たな肉体と環境に馴染ませるために作られたプログラムだ。僕と似ているかもしれない。
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