40人が本棚に入れています
本棚に追加
景色の良い場所で飲みたいのなら、戦場での休息時間でも良かった。仮想体は、望めばどこにだって連れて行けるから。
「ミナイは、あれでいてひどく臆病な人間だったんだよ」
コーヒーをそそぐミナイの背後で、太陽がゆっくりと傾きはじめる。
青かった空はいつの間にかあかね色に染まっていて、もの悲しさを感じさせる風が吹いていた。
本体と違って、仮想体から受け取る情報は全てが生々しい。
ながくこの体に留まっていたら、それこそ、自分は人間ではないのかと錯覚してしまいそうなほどに。
「ナイン、ミナイのプロフィールは知っているだろう?」
「ああ、もちろん。僕は、ミナイのパートナーだからね。彼に何があったのか、全部知っているよ」
青と赤が混ざり合う夕暮れ時の空は、とても神秘的だ。
ミナイが生まれたコロニーにも空はあるが、自然が見せる複雑な変化までは表現しきれていなかったらしい。
地球に降りてまずはじめに感動したのが空だったと、ミナイは言っていた。
「ミナイの家庭環境は、とても複雑だったと記憶しているよ」
ミナイは母子家庭だった。
父はミナイと同じようにパイロットをしていて、地球で戦死した。
コロニーで暮らしていたミナイと母は戦没者遺族年金を支給されていたが、子供を育てるには微々たるもので、母は夜の街にでて働いていた。
最初のコメントを投稿しよう!