君は、明日の夢を

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 ミナイが伴侶をとることも、まして女遊びもしない理由も、母の仕事に由来していると僕は思っている。 「ミナイは、君に性的欲求を抱きたくなかったんだ。パイロットがナビの入った仮想体を好みの容姿に作り上げてセックスドールとして扱うなんて事例は、珍しいことじゃない。平気で慰み者として扱う奴らが、嫌だったんだ」 深いコーヒーの香りが、ミナイの告白を柔らかく包む。 「君は、時代に合わないくらいに潔癖だね」  怠け者に見えて、病的なほどに真面目だ。彼らしい。  もっと、自由に生きてみればいいと他人はミナイに言うが、潔癖な生き様こそがミナイなりの自由の表現だった。  頑ななところが、僕は愛おしかったのかもしれない。 「性の代用品にされるのは、僕たちにとって、何ら問題はないよ。僕らを抱くことによってパイロットの精神が保たれるならば、本望でもある」 「わかっている。ナイン、君だって俺が望めば寝るんだ」 「責めているのかい?」  ミナイは首を振った。暖かいコーヒーを啜り、暗くなってゆく空をじいっと見ている。  恥ずかしがることでも、まして憤ることでもない。生殖行動は数ある人の本能の、ほんの一部にしか過ぎない。仮想体は人のように孕むことはないから、むしろ重宝されている。     
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