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ミナイにとって、愛を伴わない行動は許しがたいのだろう。望めば受け入れるほかに選択肢のない僕を、気遣っていたのかもしれない。
嫌悪の対象と同じ行動をしたくない潔癖さは、やっぱり愛おしい。難儀しそうではあるけれど。
「ナイン。君は俺の唯一の理解者だ」
「知っているよ。僕にとって、ミナイは愛すべき友人だ」
地球の風は、コロニーの空調施設と違って不規則に吹き付ける。
僕はステンレス製のカップを両手で持って、折角のコーヒーが冷めてしまわないように守る。
「ミナイ。君は、僕のために死を捨てたのかい? ただの、ナビゲーションシステムでしかない僕を、君は重要視しすぎだ」
「一年前、俺は大けがを負った。そのとき知ったんだ。お前に、何も伝えずに死ぬ可能性が俺にもあるのだと。天才と持てはやされていても、死ぬときは死ぬんだと思い知った」
「だから、遺書を?」
幸か不幸か、ミナイが危惧した死は訪れた。
僕はミナイが二度目の人生を歩むと決心した選択を、心の底からは喜べない。
もちろん、死別は嫌だが、今のミナイはもう人間の枠からはみ出た存在になっている。
僕と同じ、戦争の道具としての人生に、歓迎の拍手は送れなかった。無限の生を幸せと思うには、道具になるしかない。
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