君は、明日の夢を

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 ミナイ・ユウヒの体型にぴったりと合わせたシートには、きっと死臭がこびりついているのだろう。嗅覚のないぼくにはわからないが、掃除をする羽目になるだろうスタッフには、同情する。 『ドロドロになる前に、来てくれるといいのだけれどね。僕もさすがに、グロテスクな君は見たくないよ。性格はとやかく言えないが、容姿は比較的良いほうだったからね』  ミナイ・ユウヒの死亡は、すでに本部に連絡してある。  残る僅かな電力で、亡骸を守りながら独り言をつぶやけている間に来てくれると助かる。不慮の事故が無い限りは、間に合うはずだ。 『君の、数少ない友人たちに会わせられるくらいの損傷で留めておけるといいんだけどね。僕の内部電源が持つことを、天国から祈ってくれよ。天国に、君は行くんだよね?』  ミナイ・ユウヒは天涯孤独であるが、友人は多い。  惜しむらくは若く容姿がいいくせに、僕にかまけて伴侶を作れなかったことだろうか。  人類の総人口が少ない昨今、ミナイはとことん政府に非協力的な人間だった。いや、命を差し出して戦っていたのだから、じゅうぶん貢献していると言えるか。  優秀な遺伝子が、途絶えてしまうのは政府として痛手ではあるだろうが、仕方ない。本人の意向は、覆してはいけない。  世紀末な情勢であっても、自由意志は認められていなければ人類社会に価値などない。 『ミナイ、君はいつも刹那的だった』     
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