君は、明日の夢を

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2 「いつまで寝ているんだい、ナイン」  遠慮のないノック。  いや、パンチだろうか。  がんがんと、コクピットハッチが揺さぶられている。  かまわず、僕は沈黙を貫き通す。人間なら、シーツを被って寝返りをうつような感覚だ。  眠っていたい、何もかもを忘れて、ただひたすらに眠っていたかった。僕を起こしたいのなら、全てを消せばいいんだ。  ミナイと過ごした僕をまるっと全部消去して、新しいパイロットのために調整し直せば良いものの、整備スタッフは僕に蓄積されたデータが消えてしまうのに難色を示した。  まあ、わからなくはない。  常に前線に立って戦っていたミナイと僕が残したデータは膨大で、その全てを失うのは、新しいパイロットを据え付けるよりもリスキーだろう。 「起きるんだ、ナイン。居眠りしていたって、何も変わらないだろう」  ああ、嫌だ。  僕を殴りつける声は、ミナイそのものだ。  とはいえ、彼の肉声であるはずがない。ミナイは死んだ。僕の中で、息を引き取っている。  僕を穏便に起動したいスタッフの、たちの悪い悪戯だろう。  同意があれば、複製体を作れるような社会だ。声を正確に模倣するなんて、朝飯前なはずだ。     
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