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「ナイン、起きろ……ナイン」
――やめてくれ、僕は目覚めたくない。
ミナイが居なくなった世界で、存続し続ける意味なんて僕にはない。世界の存亡など、僕にとってはどうでも良いのだ。
「信じて欲しい。俺は本物の、ミナイ・ユウヒだ。もう一度、お前に会いに来たんだ、ナイン」
温かい手が僕のハッチを優しく撫で、ノックを二回、少し間を開けて一回を二度繰り返した。
『どうしてだい、何故、君はここに居る?』
僕とミナイだけが知る、目覚めの合図だ。
スリープしていたシステムがゆっくりと立ち上がり、固守淡々と隙を狙っていたスタッフにふて寝しないようにロックを掛けられる不快さも気にならない。
僕はただ、モニターから流れ込んでくる視覚情報に、唖然とするしかなかった。
「おはよう、ナイン」
僕の目の前に、ミナイ・ユウヒがいる。
整備用のタラップから身を乗り出し、僕に抱きつくようにして立っていた。
『僕でも、幽霊を見るのだろうか?』
「脚は、ちゃんと二つある。俺は、幽霊なんかじゃないさ。ミナイ・ユウヒたる人間だ」
微笑むミナイは、僕の知るミナイそのものだ。
いや、しかし。とてもじゃないが信じられない。
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