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ミナイは、死んでいる。僕の中でただの肉塊と成りはてたはずだ。
悲しい事実は、覆らない。僕の精巧なメモリーは、ちゃんと記録している。覆るはずがない。
「混乱しているね、ナイン。まあ、無理もないだろう。俺自身、少し驚いている。ミナイ・ユウヒが残した記録をたどれば、彼は根っからのナチュラリストだったから」
『まさか、君は複製体なのか? ミナイは思想を曲げて、遺伝子を自ら提供したのか?』
「俺の、現時点の個人データの開示をしよう。すぐに事実だと理解できるはずだ。君ならね」
ミナイと名乗る黒髪黒目の男と話している最中、事後承諾的にシステムの閲覧と保存を希望するスタッフに仕方なく許可をだし、ついでに整備の申し出も受け入れる。
僕は同時にネットワークを介して、ミナイの個人データのアクセスを試みた。
煌歴二〇一五年四月、ミナイ家の次男として生まれたユウヒ――日本の言葉では三内夕陽と書く彼は、日本領コロニーで生まれた。
国際連合軍に入隊し、パイロットとして宇宙域の戦地を転々とし、二〇歳で地球に降り、僕と出会った。
はじめてミナイと出会った日は、今でも鮮明に……映像として記録しているのだから当然だが、しっかりと思い出せる。
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