出会い

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 なんとも返事のしようがなくて、僕がモゴモゴしていると秋生さんは名刺をくれた。 「怪しい者じゃないから、安心して。この店に入りづらいのなら、慣れるまで一緒に入ろうか」 「……いいん、ですか?」 「いいもなにも。君は、自分を取り戻しにここに来たんだろう?」  その通りだった。  同性愛者である自分を認め、受け入れてくれる場所を求めて、僕はここに来た。それを見透かされたことが恥ずかしくて、けれどうれしくて、体中が熱くなる。 「ありがとうございます」  連絡先を交換しようと慌ててスマートフォンを取り出した僕の手を、秋生さんはやんわりと押しとどめた。 「僕は毎週、金曜日の夜に来るから」 「えっと、あの」 「そう簡単に、相手を信用してはいけないよ」  名刺をもらっても、信用しちゃいけないんだろうか。  そう思ったけれど、声には出せなかった。言えばものすごくダサい気がして、僕は「わかりました」とスマートフォンをカバンにしまった。  それから、どんな会話をしたのかはっきりとは覚えていない。しゃべっていたのはほとんど僕で、秋生さんは静かな笑みをたたえて時々グラスに口をつけていた。内容なんて、あってないような会話だった。  そう。  たわいないけれど、ちゃんと会話をしているという実感のある、充実した夢のような時間だった。  終電が近づいて、このまま秋生さんとどこかへ行きたい気がしたけれど、まっすぐ駅まで送られて「それじゃあ、また」なんて言われたら、食い下がれない。  秋生さんはどこに行くのか、改札を通った僕に背を向けて、ネオン輝く夜の街に戻っていった。  完全に、ひとめぼれだった。  それから僕は毎週金曜日、必ずバーに顔を出した。目当てはもちろん、秋生さんだ。入り口で出会えることはまれで、だいたいはどちらかが先に店内にいた。  秋生さんは僕を見つけると、誰かと過ごしていても断りを入れて、僕の隣に来てくれた。その中で明らかに、秋生さんと艶っぽい関係なんだろうなと思わせる相手がいた。その人は秋生さんとおなじか、それよりもすこし年上に見えた。スーツのよく似合う、大人の男だ。  大学生の僕からすれば、それは父よりも年下の、けれど立派なおじさんだった。なのに秋生さんには、おじさんという単語が似合わない。そう思うのは、僕が秋生さんに惚れているからだろう。
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