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寒い。
痛い。
眩しい。
まぶたを持ちあげれば、光をまき散らす太陽の直撃を受けた。目を細め、顔を背ける。頬に冷たい砂利の感触がした。次いで足元に冷たい水が打ちつける。
潮の匂い。
ここは、海だ。
ゆっくり身体を起こすと、背中に鋭い痛みが走った。確認しようと回した腕は、痛みのせいで目的地までたどり着くことができない。
ここはどこなのだろう。
座り込んだ尻に、繰り返し冷たい波が押し寄せる。辺りを見渡せば、正面には水平線を引いた海原、背面には尖った岩肌がそびえ立っていた。土もない岸壁にどう生きているのか、逞しく木々が生い茂っている。
ここはどこなのだろう。
再び脳内で問いかける声がする。なぜ自分がここにいるのか、そもそもここがどこなのかまったく思い出せなかった。
それ以前に――。
鮮明さを取り戻した脳が焦りを見せ始めた。背筋がさあっと冷えていく感覚。慌てて立ち上がれば、目眩によろめいた。
靴は履いていない。ぐっしょりと濡れて重たくなった服は、珍しくもないビジネススーツ。吹きつける海風に背中が大きく破れていることを知った。
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