月猫書堂

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「どうか――君と仲良くなれますように」  満月への願掛け。  月は願いを叶えてくれるのか……?  立待月  居待月  寝待月  更待月  月の出が遅い夜は、不可思議な出会いが起きることはよくある。 (あ……こんな時間でも、まだ開いている本屋があるんだ)  自転車から降りた佳世は、まるで誘蛾灯に誘われる蝶のように明かりに近づいて、書店の前に止める。  今、夜の九時。  秋も深まってきて、自転車を漕ぐときマフラーや手袋だけでは、寒く感じるようになってきた昨今。  空には中途半端に欠けた月が出てきていた。  あ、少しは夜道も明るくなったかな。と佳世は月を仰ぎながら本屋の戸を開ける。  ローカル、とも違う。だからといって都会でもない。  中途半端に発展している市に、佳世は住んでいる。  駅は再開発に目まぐるしいるけれど、駅から離れれば昔から建っている木造住宅が軒を並べていた。  たまに違う道で帰ろうと一本脇に逸れてみたら――見つけた木造建築の書店。  名前は 『月猫書堂』  変わった名前だ。 (ちょうどいいや。参考書、売ってないかな)  カラカラと、引き戸の戸車が軽い音をたてる。  枠が木製のいかにも古い造りなのに、あっけないほど軽い手応えだ。  入った瞬間、佳世は「失敗した」と後悔した。  棚に並んでいるのは古書ばかり。  古本屋だと一目で分かるものだ。 (参考書なんて売ってないか)  と踵を返した時だった。 「こんばんにゃ。今夜は何をお探しかにゃ?」  佳世の目の前に現れたのは―― 「……猫?」
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