16人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「これ幾らなんですか?」
佳世はお財布を出しながら尋ねると、猫店主は「いらないにゃ」と首を横に振った。
「いらない? だってここ、本屋でしょ? 私、購入するんだよ?」
「お代は別な方法で頂くにゃ」
一気に胡散臭くなってきた。佳世は眉間に皺を寄せる。
「……まさか、『数年分の寿命をもらいます』とか『代わりにあなたの大切なものもらいます』とかじゃないでしょうね? だったらこの本、いらない!」
ぷん、と本を突き返そうとした佳世に
「佳世ちゃんは、架空漫画とか小説読みすぎー」
と、猫店主はニャハニャハと笑う。
「じゃあ、どうしてお代とらないの?」
佳世の疑いの籠もった問いに猫店主はまた、爪を立てて本を指さした。
「ここの本は読んだ人が『もう必要ない』と思ったら消えてしまうんにょ」
「――消える?」
うん、と猫店主。
「だから、いずれ消えてしまう本なのに、お代を取るわけにゃーいかないの」
佳世はジッと手にした本を見つめる。
(これが……いつか消える)
いかにも参考書で、厚みも重さも現実感がある。
手触りも、普通の紙で質の良いものだ。
「……でも、それでここの本屋、やっていけるの?」
「佳世ちゃんは優しいね。心配してくれるのか?」
「そ、そんなこと……ちょっと、気になっただけだから」
「大丈夫、本を作っている元締めからちゃんと報酬をもらってるにゃ。心配ご無用!」
「そ……そう、なんだ」
胸をそらし、エヘンといばる変な猫の言葉に佳世は、納得したようなしないような返事をして、本屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!