月猫書堂

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「これ幾らなんですか?」  佳世はお財布を出しながら尋ねると、猫店主は「いらないにゃ」と首を横に振った。 「いらない? だってここ、本屋でしょ? 私、購入するんだよ?」 「お代は別な方法で頂くにゃ」  一気に胡散臭くなってきた。佳世は眉間に皺を寄せる。 「……まさか、『数年分の寿命をもらいます』とか『代わりにあなたの大切なものもらいます』とかじゃないでしょうね? だったらこの本、いらない!」  ぷん、と本を突き返そうとした佳世に 「佳世ちゃんは、架空漫画とか小説読みすぎー」 と、猫店主はニャハニャハと笑う。 「じゃあ、どうしてお代とらないの?」  佳世の疑いの籠もった問いに猫店主はまた、爪を立てて本を指さした。 「ここの本は読んだ人が『もう必要ない』と思ったら消えてしまうんにょ」 「――消える?」  うん、と猫店主。 「だから、いずれ消えてしまう本なのに、お代を取るわけにゃーいかないの」  佳世はジッと手にした本を見つめる。 (これが……いつか消える)  いかにも参考書で、厚みも重さも現実感がある。  手触りも、普通の紙で質の良いものだ。 「……でも、それでここの本屋、やっていけるの?」 「佳世ちゃんは優しいね。心配してくれるのか?」 「そ、そんなこと……ちょっと、気になっただけだから」 「大丈夫、本を作っている元締めからちゃんと報酬をもらってるにゃ。心配ご無用!」 「そ……そう、なんだ」  胸をそらし、エヘンといばる変な猫の言葉に佳世は、納得したようなしないような返事をして、本屋を出た。
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