月猫書堂

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◇◇◇◇◇   桜の花が舞う。  昼間の空気が朧気になり、薄桃色に色づくように感じる今日この頃。 「確か――ここ! ほら『月猫書堂』ってあるでしょ?」  興奮気味に騒ぐ少女の声が扉を閉めているのにも関わらず、聞こえてくる。  カラカラ、と引き戸が開く軽い音と足音。 「いらっしゃい」  ブレザーの学生服を着た少女は、店内にいた青年に声をかけられてビックリしたようで、そのまま固まってしまった。 「おい、北原」  すぐ後ろにいた少年が、彼女の肩を軽く揺すると目が覚めたように動く。 「……あ?あ、あの……ここに、猫。猫はいませんか!?」 「おい、突然『猫いませんか』ってないじゃん」  少年が少女に突っ込みを入れたら 「だ、だって……それが一番印象的だったんだもん」 と困ったように口を開いた。  青いエプロンをつけた青年は、動じる様子もなくニコニコと応対してくれた。 「猫なら――ほら、レジのところにいるよ」  と指をさして二人に促した。  そこには――ここは俺の寝床と言わんばかりにレジ台に、巨体を横たわらせている茶虎の猫がいた。 「――あっ!そう!この猫!」 と少女は駆け寄ると猫に話しかけた。 「ねえ! あなた、あの時の猫でしょ?私に本を渡してくれた。覚えてる?」  だけど猫は少女の問いかけが耳に入っていないようで、スウスウと寝息でお腹が動くだけだ。 「ねえってばあ!」  少女は、猫の横腹を擦りながら尋ねる。 くる、と猫が反転し少女と目を合わせると「にゃー」と一声鳴いてレジ台から降りて奥へ引っ込んでしまった。
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