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「ほら。あんな風に揺するから、寝られねーって奥に引っ込んじゃったじゃん」
少年の言葉に少女はぷう、と頬を膨らませた。目には微かに滴が溜まっている。
「だって……私本当に、夜にここへ来て、あの猫から本をもらったのよ?」
「夢だって。証拠にその本はないんだろ?」
「用がなくなれば、自然と消えちゃうって言ったじゃん!」
しょうがないなー、と少年は青年に声をかける。
「あの、すいません。この本屋って何時まで開いてますか?」
「ここは、夜の七時までですよ。ご年輩が好みそうな古書しか扱ってないので、早めに閉めちゃうんですよ」
「九時過ぎまで開けておくってことありますか?」
青年はちょっと小首を傾げながら「うーん」と首を横に振る。
「閉店間際にたまにお客さんが入ってきた時は開けておくけど、そんな遅くまでは開けといたことはないですね」
「ほらー、佳世。やっぱり夢だよ、きっと」
と少年は、まだグジグジとしている少女頭を撫でてやる。
「だって……私、何回も読み返したもの……あの参考書」
「うん、分かった」
「分かってない! 私……!」
「俺と仲良くなろうって、一生懸命になってくれたこと……ちょー嬉しいから……」
二人、ほんのり桜色に頬を染めて「おじゃましました」と店から出ていった。
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