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「ええ……。事故にあった時も――鞄の中にはドナーカードが入っていたの。「一人でも多くの人が助かりますように」そう書いたメモとともに……」
当時のことを思い出したのか、実穂さんのお母さんの目からは涙が溢れる。片岡さんも、口を噛み締めるようにして……黙り込んでいた。
「でもね、そんなあの子だから――潤君のことがずっと心配だったと思うの」
「え……」
実穂さんのお母さんは、涙で潤んだ瞳を片岡さんへと向ける。
「あなたが苦しんでいること、ずっと知っていたのに――今まで何も言えなくてごめんなさいね。でも……あなたは十分にあの子を愛してくれた。あの子は……幸せだったのよ」
「そんな……こと……」
「だから――今度は、あなた自身が幸せになって。それが、あの子のためでもあるのよ」
「っ……」
実穂さんのお母さんの言葉に、片岡さんの瞳からも涙が溢れる。ポタポタと零れ落ちたそれは、テーブルの上を濡らす……。
私はふと、視線を感じて仏壇の方を向いた。遺影の中から、実穂さんがこちらを見つめているのが見えた。
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