17. 鼓動の記憶

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「潤君」 帰りの車に乗り込もうとした片岡さんを、実穂さんのお父さんが呼び止めた。 「今日は来てくれて本当にありがとう。――おかげで、私たちの中でも少し……整理が付いた気がするよ」 「そんな……」 「――もう、これで最後にしよう」 「え……?」 実穂さんのお父さんの言葉に、片岡さんの動きが止まった。 「君は今まで十分実穂を愛してくれた。あの子は、生きているときも――そして、死んでからもずっと幸せだったと思う。……次は君が、君自身が幸せになる番だ」 「でも……!」 「君は生きているんだ。いつまでも過去に縛られるのではなく……未来に向いて、歩いて行かなくちゃいけない。そのためには――いつまでもここに来ていてはダメだ」 俯いたまま、片岡さんは何も言わない。 「君には、君の人生を歩いて行ってほしい。それが私たちの――そして、実穂の願いだ」 「は、い……。分かり、ました……」 片岡さんの肩が震えている。けれど、一例をして車に乗り込んだとき――彼の目には、涙はなかった。 ただほんの少しだけ――頬が濡れていた。 「――お待たせ」 「はい……」 「行こうか」 いつまでも頭を下げる実穂さんのご両親に、もう一度頭を下げると私たちは実穂さんの家をあとにした。 家が見えなくなる寸前、振り返ると――実穂さんのご両親が抱き合って……おそらく泣いているのが、見えた。 その瞬間――私の心臓が大きく跳ね上がり……そして、静かに脈打ち始めた。 これが、心臓が私の感情とは乖離して鳴り響く――最後となった。
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