番外編 花のようなひと

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 この、身も心も許し合ったひとときが好きだ。汗も、肌すらも混ざり合い、身体を繋げるよりも深く愛し合っている心地がするから。主と従で分かたれていた時はもう遠く、今は肌を重ね合う恋人同士なのだと、深く実感できるから。  首の下に腕を差し込んでやると、一弥はくすぐったそうな顔をしつつも素直に頭を預けてきた。恋人の重みが愛しく、剛実は、汗でしっとりと湿った髪を幾度も撫でてやる。  そうするうち、まぶたを閉じた一弥の呼吸が、次第に規則正しいものになってゆく。剛実は浴衣を引き寄せ、細い肩をくるんでやった。今宵はこのままひとつの布団で休もうと、片腕だけで夏掛けを引っ張り上げてそれも掛けてやる。  一弥の寝顔にまで見惚れてしまう自分が、いっそ滑稽なほどだった。恋人は、どんな夢を見ているのだろう。夢の中でも離れたくなかった。今から追いかけても、間に合うだろうか。  満ち足りた表情で眠る一弥の顔を見ていると、とろとろと眠気が込み上げてくる。至福の時に浸りながら剛実は、愛しい花を抱いてまぶたを閉じた。永遠に枯れない想いをも、胸に高々と掲げて。                                         (了)
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