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この日限りで、華族制度は廃止されることとなる。
剛実は、扉の前で立ち止まったものの振り向きはしなかった。その背中に一弥は歩み寄り、腰にしかと両腕を回す。積年の軛を断ち切って、広く逞しい背に甘えるように頬を当てる。
「おかしなことを言う。もはやただの平民となったこの身を前に、どうしてまだ臣下のような振る舞いをするのだ」
「お、おやめください、一弥さま」
剛実は慌てて制するが、戯れなどではないと、一弥は胴を抱えた腕にぎゅっと力をこめる。
「お前ほど僕を想ってくれる人間などいない。……それは僕も同じだ。お前のためなら、この身がどうなろうと構わなかった。だが、それは愚かな思い上がりだったな」
自嘲を込めてつぶやき、一弥ははっきりと、己にも言い聞かせるように続けた。
「家名や身の上などに囚われずに生きていけるのなら……残りの人生は、剛実、お前と共に歩んでいきたい」
剛実は驚きに腕をほどき、こちらに向き直る。
「ご冗談でしょう」
「冗談など言う僕か?」
「……いいえ。それはよく存じ上げております」
剛実はかぶりを振ったが、なおも畏まってみせる。
「一弥さまはお小さい頃から、生真面目でひたむきで……自分は、そんなあなたのお役に立てるだけで嬉しいのです」
「頑ななことだな」
一弥は苦笑するが、それは己も同じだと省みる。背負った荷のせいで本心を握り固め、素直な感情を裡にずっと封じ込め続けていた。
「剛実。……」
一弥はひとつ息を吸い、相手に向き直った。そして、震える思いで口を切る。長い、長い間、自らの胸に縛りつけてきた言葉を唇に乗せて。
「好きだ……誰よりも、お前が愛しい。幼き頃より、ずっとお前だけを想っていた」
目を真円に見開く剛実を前にし、一弥は自らするりと上着を脱いだ。心だけでなく、この身のすべても、彼に捧げたいのだから。
「だから今夜……今日というこの夜に、お前だけを恋うる、ただ一人の男として抱いてくれ」
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