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心が正直に震えた。訥々と伝えられる彼の胸の内に、熱い感情が込み上げてくる。
布団の中で横になったまま、小さな四つ葉を飽かず手にしてためつすがめつする剛実を見たキクは「押し花になさい」と言った。やり方を教えてもらい、そのとおりにしたクローバーを、さらには栞にしてもらった。しばらくは本を読む時に使っていたがだんだんとくたびれてきたので、今は剛実が寝起きする部屋の、文机の奥に大切にしまってある。
「あのクローバーは、今も持っていますよ」
「本当か?」
驚かれるのも承知で、剛実は言い重ねた。
「一弥さまからいただいたものは、クローバーに限らずすべてが宝物です。どれもこれも、簡単に捨てられるものではありません」
「……そんな大層なものはあげていないはずだったがな」
照れ隠しにかそっぽを向いてしまった一弥に身を乗り出し、剛実はさらに告げた。
「ものだけではありません。思い出や、かけがえのない気持ちをたくさんいただきました」
胸に抱いているそれが、ぐうっと大きくなる。自分でも制御できない感情が突き上げてき、剛実は喉を詰まらせた。
いつしか芽生えていた恋心をひと言でも伝えられたら、どんなにか良かったろう。しかし言えるはずもない熱情を抱えたまま、もどかしい気持ちに任せてつぶやく。
「……一弥さまにお仕えしていなければ、こんなに熱い気持ちは一生知らなかったでしょう」
相手を恋うる、狂おしいほどの感情。たとえ成就することも、伝えることすら叶わなくとも、この想いを捨て去ることなど出来はしない。それは彼のそばで彼に仕え、ひたすらに彼を支えてきた証でもあるのだから。
「……それは僕も同じだ」
一弥がつぶやいた。思わず相手を見返すと、彼は眦を染めて言葉を継いだ。
「剛実がそばにいなかったら、今の僕はいない。剛実ほど僕を大切にしてくれる人間は、あとにも先にも、きっといない。……お前が僕を支えてくれることで、僕がどれほど心強く思っているか……」
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