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騒ぎ声が上がった。
野次馬の中からだった。
一目見て、騒いでいるのは、勘違いしている面倒な連中だということが分かった。
首に十字架をぶら下げ、木製の杭を手にした数人の男女グループが、警察官に向かって騒ぎ立てている。
そうして、しきりに救急車の方を指差しているのだ。
「分からないの、こうしてる間にも連中は増え続けているのよ! あの中の死体も、今に起き上がって、人を襲うのよ! そうやって増えるのよ! 知らないの、読んでないの?」
叫ぶ中年の女が、指で十字を切りながら、分厚い本を掲げてみせる。
「本に書いてあるわ! 殺すには、胸に杭を打ち込むしかない! 何故、分からないの!」
「あの、ですね」
若い警察官が、困り果てたように、詰め寄る女たちを宥めようとする。
「救急車に乗せているのは、怪我をした人たちです。遺体では――」
「そう見えるだけ、分からないの! すぐに心拍停止して、そうして蘇るのよ! 吸血鬼に血を吸われたら、そうなるの! 私の旦那もそうだったわ! 分からないの!」
「やれやれ」
来栖が嘆息を漏らした。
「ああいう輩は、どこの現場にもいるもんだな」
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