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「吸血鬼は、血を吸った人間の意志を操れるとも書いてあるわ! あんたたちも操られているのね! 国から乗っ取る気なんだわ! 全員、首を見せなさい! 今すぐに!」
「おや、そいつは新説だ」
と来栖。
「やだなぁ、ヒステリーだよ」
と小鳥遊。
問題の男女グループは、救急車の進行方向に立ち塞がっており、なかなか救急車が出発できない。
怪我人を乗せているというのに。
警察がグループに対して、しっかりとした対応を取れていないところに、世間にはびこる誤解の根強さを見たように思った。
「杭を打ち込むの! 起き上がる前に! さっさと、そこをどきなさい!」
女の後ろで、杭を持った連中が、賛同の声を上げた。
彼らの持つ杭は細く、その目的を達するには役に立ちそうもない。
「さっきの話を聞かせてあげたらどうですか」
「無駄だろうな。連中は自分たちの間違いを認めようとはしねぇ。違う二つの理屈があるなら、間違ってんのは相手の方だ、と思い込む連中だ。何度も何度も説明してきたんだが」
尾瀬の言葉に、来栖が、諦めたような声で答えた。
「初期症状と末期症状の区別も付いてねぇ。どんなにテレビや新聞で偉い学者や政治家が説明しようと、あいつらは古臭い伝説を信じる。単純明快な吸血鬼をな」
警察官が数人集まって、男女グループを救急車から遠ざけようとした。
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