1-1 血は紅く

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 屍は、その強大な力から逃れようと、爪の伸びた両手を振り回し、尖った歯を剥き出しにして唸り、足をばたつかせながら、着実に、家の中を引っ張られていく。  玄関をくぐる瞬間、屍は断末魔の悲鳴を上げた。  真夏の太陽の下にさらし出され、屍の身体は、炎を上げて焼け爛れ始めた。  皮が剥がれて灰と化し、炎と共に風で千切れる。  その動きが止まるまで、そう長くはかからなかった。  肉の焦げる、むせ返るような苦い匂い。  炎が消えて黒煙に変わり、アスファルトの上で、動かなくなった肉体が泡立っていた。  それで終いだった。  仕事を終えて外に出る僕たちと入れ替わりに、清掃担当の処理班が家へと入っていく。  家の周囲には野次馬の取り巻きができており、現場に入れないよう、警察官たちが封鎖していた。  そんな警察官自身も、好奇心に満ちた目で、こちらを見つめていた。  民放各局が、関係者にぶら下がり取材を行っている。  僕たちが出た瞬間、どの局のカメラマンも、一斉にこちらにカメラを向けてきた。  来栖が、血に塗れたヘルメットをかぶったまま、カメラに向かって手を振った。  そんな風に注目を浴びながら、僕たちは太陽の下で、仕事終わりの開放感を味わう。  黒焦げになった屍の身体を見つめ、その腐臭に耐えながら、南が溜息を吐いてヘルメットを脱いだ。     
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