1-1 血は紅く

5/8
前へ
/210ページ
次へ
 茶髪のショートカットが、焦げ臭い微かな風に揺れる。 「オールクリア。いつ見ても気持ちの良いもんじゃないわね、やっぱ」 「ナミちゃんってばデリケートだよ」  そう言いながら、同じくヘルメットを脱いで鋭角的なツインテールを現し、南に近寄ったのは、拳銃をホルスターにしまった射撃の名手、小鳥遊だった。  彼女は、南のことをいつもナミちゃんと呼ぶ。  だから、南をナミという名前だと誤解している人間は多い。 「焼き過ぎて失敗した魚って思えばいいんだよ」 「そんな脳天気な発想はできないよ、私」 「えへへ。コロンブス的転回、だよ」 「それ言うならコペルニクス的転回。勉強しないとね、小鳥(ことり)」 「あ、隊長、隊長、どうだった、今日のあたし」  来栖は槍を壁に預け、血塗れのバイザーをタオルで拭っているところだった。  ヘルメットでぺちゃんこになっていた髪を、手で掻き上げる。  茶色く染めた、アシンメトリーの髪。  適度に輪郭の長い、女子受けする整った顔立ち。 「及第点」 「何それー。隊長、暑いからって、八つ当たりの辛口は駄目だよ」 「学生の本分は勉強だぜ。コペルニクス間違えるようじゃ満点はやれねぇよ」  来栖は、汚染されたタオルを処理班に渡し、家から出てきた。     
/210ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加