ひとつ、ひとつ…

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東京に向かう新幹線の中、想太はずっと考えていた。 確かに、自分の中で、一つ一つ整理していかなければならないこと多いのは分かっている。 ずっと、過去に目をつぶって生きてきた俺は、その恐怖に打ち勝つ術を可南子によって取り戻した。 可南子と結婚するということは、きっと、そういうことなのだろう。 俺達は、新しいスタートを切るために嫌なことにもちゃんと向かい合う。 特に、俺は、過去から逃げていた人間なわけだから。 「ねえ、可南子。 可南子も整理しないといけないものがあるんじゃないのか?」 「整理?」 「さっき、可南子が俺に言ったことだよ。 二人で結婚生活を始めるにあたって、整理しとかなきゃいけないこと」 「う~ん。 私はあまり思い当たらないから大丈夫だと思う」 「嘘だ」 想太は目を細めて可南子を見ている。 「あるだろ、大事な案件が」 「何だろう?」 可南子は、本当に何も思いつかなかった。 すると、想太は半分呆れた顔で、小さな声で可南子に耳打ちする。 「瀬戸だよ」
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