本屋さんと覗き魔

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 座敷にある一冊の魔法の本「ギルティワールド」の中にこうして新しい住民が登録されることとなる。 「てー!」  一方でそんなことも知らずにのんきに風呂に入っていた本物の読子は、鼻歌からついに歌まで歌って一コーラスを終えていた。  そろそろ汗を流すための昼風呂には充分だろうと読子は風呂から上がって体を拭いた。 「髪の毛が乾いたら交換してくださいね」 「ハーイ」 「それにしても店長って、そうやって目元を隠さないとイヤミなくらい美人ですよね。それで三十過ぎって……」 「一つ良いことを教えてあげるわ。女性の年齢は女性でも言わない事よ。その方が若くいられるから」 「そう言われてもわたしだってまだまだ若いですし」 「だったら私の年齢なんて気にせずに若さを私に見せつけなさいな。さあ、もう一踏ん張り!」  風呂上がりの読子は自分をおばさん扱いしたと見なした葵にちょっとした仕返しをしていた。  そんな読子も気づかぬ今日の変質者が本の世界から生還するのはいつになることか。  他人の願いを力を用いて叶えることで自分の願いを叶える術を模索していた先代魔女が仕込んだ良心なのか、本の中で死ぬか改心すれば過去にさかのぼって脱出出来るのだが、それに気付く日は彼にはしばらく先のことだった。
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