第八章

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「それに何より、翠玲にもう好きになってもらえないってことが辛かったな……」 今度は堯晄の唇が重ねられた。余韻から浮上すると、翠玲は首を振って懸命に訴える。 「そんなことない! こんなに深く想ってくれていたなんて、私知らなくて……。二人とも大好き……!」  翠玲は二人の肩に左右それぞれの腕を回して抱き寄せる。 「今まで気付かなくてごめんなさい。私も、??慧様と堯晄様がいない生活なんて考えられなかった。だから、もう子どもだった頃のように一緒にはいられないのかと考えたとき、すごく悲しくて……」  翠玲の瞳に涙が潤み始める。??慧は余りの衝撃に、もう一度確認せずにはいられないといった様子だった。 「翠玲……本当に構わないのか? こんな、醜く焼け爛れた顔の男で」  翠玲は身を乗り出すと、返事の代わりに傷の残る側の頬に唇を寄せる。首筋にも、肩にも、優しく触れるように傷跡を辿っていく。 「そして、死んだはずの男にも囚われたままでいいということか?」  翠玲はそれにも深く頷くのだった。 「ならばどうか名前を呼んであげてくれないか? 私以外に誰も呼ばなくなった、存在さえ消されてしまった堯晄の名を……」 「はい……『堯晄様』」  翠玲は首元から鎖骨へと、堯晄の肌にも唇で触れる。 「兄上、俺の存在を消してしまったことを、そんなに気に病む必要はない。俺は表では皇帝だが、俺がやっていけるのは兄上の力があってこそ。むしろ、外に出ることのできない兄上を、俺は気の毒に思っている。とにかく、兄上はここで存分ご自慢の頭脳を活躍させればいい。あと、翠玲もな! 援護よろしく」 「はい! また一緒にいられるようになったんですね……本当に嬉しいです」  翠玲は泣き笑いの表情で答えた。
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