プロローグ

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プロローグ

 乾いた風が大地を駆け抜ける。大河は冷たい蒼を映しながらゆったりと流れゆく。  ここは広大な華の大地に覇を唱える大帝国――?(えん)の都、瑞京(ずいけい)。  都の中心を皇城まで一直線に走る大通りは繁栄を象徴するように人や荷馬車の往来も多く、東西それぞれの区画に立つ市は寒空の下でも賑わいを見せる。突き刺すような冷たい外気も人々の活気がすぐに熱くした。  そんな新年を迎える準備で慌ただしい年の瀬、ここ数年臥せっておられた皇帝陛下がとうとうこの世を去った。十年程前に最愛の妃を失くしたのが余程堪えたのか、以来めっきりと無気力になった彼には、最早気持ちをこの世に繋ぎ止めるものは何もなかったのであろう。彼は穏やかかつ静かに息を引き取ったそうだ。  崩御の知らせはすぐに都を駆け巡り、忙しない日々を送る人々の間に衝撃が走る。覇王、大帝などと二つ名で呼ばれることはなくとも、それなりに豊かな生活を与えてくれていた主の喪失に、民はみな悲しみに暮れた。  過ぎにし日々と変わらず日は昇り、そして天に星々が輝くものの、何処かひっそりともの悲しい。そんな空気の中で迎えた年明けだった。
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